労働法コラム シイナ社会保険労務士事務所 監修 2024/09/11 更新

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シイナ社会保険労務士事務所

 

1.労働者派遣法の歴史(派遣法成立まで)

 

人材派遣とは?

人材派遣とは、人材派遣会社が雇用する従業員を他社(派遣先会社)に派遣し就労する仕組みです。
派遣先会社としては自社で教育しなくても必要なスキルを持つ労働者を人材派遣会社から派遣してもらえるため、必要に応じて人材を活用できるのが魅力です。
近年の日本での人材派遣制度は昭和61年の労働者派遣法(派遣法)の成立により始まります。

派遣法成立前の人材派遣は?
人材派遣のような形式は、労働者供給業という呼称で行われていました。
しかし現在のような法整備がなかったために労働者に対する責任の所在が曖昧であったために供給元による労働者への支配が強くなってしまい、賃金の中間搾取や供給先の労働環境の悪化といったことが問題となったため、昭和22年の職業安定法の成立により労働者供給業は禁止されるに至りました。

派遣のニーズの高まり
ところが昭和50年代に入りますと、日本経済もグローバル化やOA機器をはじめとする技術革新により、各企業内の人材だけでは対応しきれない業務が発生します。
社内で対応できる人材を育成するにも時間がかかり、またその間にも新たな技術が開発されるなどスピーディーな対応必要となるため、専門的な知識と技術を持つ人材の確保が求められました。
そのため、派遣法が成立したのです。

派遣は特例で認められた
しかしながら、以前の労働者供給のような事態になる懸念がありました。
そのため派遣法では以下のような仕組みを設けることで、以前のような問題を発生させないようにしています。
・派遣元の会社に労働者の雇用主としての責任を負わせることとし、派遣元の会社が労働者の雇用や労働条件を管理する。
・労働者が派遣先の会社で受ける指揮命令は派遣契約の内容に基づく範囲に限定することで、過剰な指揮命令を排除する。
ところが、労働者供給を業務として行う禁止する職業安定法は派遣法成立後も現在まで廃止されておりません。
つまり、派遣法は労働者供給の特例として認められている制度として始まりました。

 

2.労働者派遣法の歴史(派遣法成立後)

 

派遣の対象拡大と規制緩和
労働者派遣法成立後、人材派遣に対する企業からの需要はどんどん高くなります。
それに応じる形で派遣法も改正が行われ、規制緩和が行われます。
・当初は派遣が可能な業務を限定的に列挙していたものを、逆に派遣を禁止する業務を列挙する形に改める(1999年)
・派遣契約期間の終了時点で合意があれば派遣労働者を派遣先企業に直接雇用できる紹介予定派遣制度の解禁(2000年)
・物の製造業務への派遣が解禁(2004年)

派遣切りの問題を経て派遣労働者の権利保護へ
ところが、2008年に起きたリーマン・ショックによる経済不況で大きな影響を受けます。
経済不況により各企業が経費削減をしていく中で、自社雇用ではない派遣労働者が派遣契約を打ち切られることにより職を失い、社会問題となります。
そのため派遣労働者の雇用安定に関する指針が見直しや労働者派遣法の改正が行われ、これまでの規制緩和とは一線を画し、派遣労働者の権利保護を目的とした規制へと動き始めます。
派遣労働者の保護については、主として以下のようなものが挙げられます。これらの保護規程の内容につきましては別の機会にてお伝えいたします。
・派遣契約の中途での解除の際には、派遣元企業に対して休業等により雇用を維持することを求め、派遣先企業に対しては休業等により生じた派遣元企業の損害を賠償するよう定める(2009年)
・雇用が不安定になりやすい日雇い派遣を一部の職種を除いて原則禁止(2012年)
・継続して3年派遣される派遣労働者の雇用を安定化させる措置の義務化(2015年)
・派遣先企業の正社員と派遣同労者との間での不合理な待遇差の解消するため、同一労働同一賃金の仕組みを導入(2020年)

まとめと派遣法の今後
労働者派遣という制度発足後しばらくは規制緩和により社会的な認知が進み、また雇用形態の一つとして日本社会に浸透しております。
ところが、派遣労働者の権利に関しては法整備が追い付いていない面がありました。
その後の法整備により、派遣労働者が働きやすい環境が整ってきています。
また日本社会は少子高齢化による労働力人口の減少が深刻な問題とされ、近年、働き方改革による労働者が働きやすい環境の必要性が叫ばれています。
そのため、派遣労働者が安心しかつ意欲的に働ける労働環境を整備しようという流れは、今後も継続すると考えております。

 

3.社会保険とは

 

毎月支払われる給与には、基本給(月給、日給、時給)や通勤手当をはじめとする各種手当などが記載されているかと思います。
同時に公的な支払に対する控除として、所得税や住民税と同時に、健康保険料や介護保険、厚生年金保険料が給与より差し引かれています。
今回は、健康保険や厚生年金といった『社会保険』と呼ばれる制度について簡単に触れていきます。

健康保険は仕事以外での病気・ケガ・出産の保険
健康保険は、大きく『健康保険』と『介護保険』に分けられます。
健康保険とは、労働者又はその被扶養者の疾病、負傷若しくは死亡又は出産のための保険です。
例えば、病院に行く際に健康保険証を提示し治療を受けたとします。その際に病院に行った本人が病院に支払う金額は本来必要な金額のおおよそ3割程度になります。
残りの7割は健康保険からの保険給付という形で、自己負担額が減るようになっています。

介護保険は、介護にかかる費用負担を軽減するための制度となります。
介護保険の給付を受けるには、介護の必要があると認定を受ける必要があります。

厚生年金保険は将来働けなくなった時の所得を補う保険
厚生年金とは老齢、障害又は死亡にの際に、労働者やその遺族に対してその生活を守るための保険です。
必要最小限の保険としては国民年金という制度がありますが、厚生年金はその国民年金に上乗せする形で保険の給付が行われます。

健康保険や厚生年金に加入するには?
これら社会保険に加入するには正社員はもちろん、パートやアルバイトも下記の要件を満たせば加入することになります(中小企業は条件が異なります)。
①1週間の所定労働時間が20時間以上であること
②2か月を超えて雇用継続の見込みがあること
③月の報酬額が88,000円以上であること
④学生でないこと
⑤事業所で社会保険に加入している従業員が101名以上いること(令和6年10月より従業員51名以上の事業所に変更される予定)
⑥介護保険については満40歳以上であること
また、上記の要件は健康保険、厚生年金とも共通です。
そのため一部の例外を除き健康保険だけ加入、または厚生年金だけ加入ということはできません。

 

4.労働保険とは

 

前回、『社会保険』と呼ばれる制度について簡単に触れてきました。
今回は、『労働保険』について触れていきたいと思います。

労働保険は、労災保険と雇用保険の総称

労働保険という言葉にはあまりなじみがないかもしれませんが、労災保険と雇用保険の総称で、広く社会保険の一部として認識されています。
社会保険は前回も触れましたように、お互いを助け合う相互扶助の考えに基づく制度です。
労働保険も普段はその恩恵を受けないのですが、いざというときに労働者の生活を支える重要な制度となっています。
では、労働保険に含まれる労災保険と雇用保険とはどのような保険なのでしょうか。

労災保険とは

労災保険はその名の通り、業務に必要な行為によって受けた病気やけがに対して給付を行う保険となります。
病院での治療にかかる費用のほか、通院の費用や治療の間に仕事ができなかったことによる給与所得の補填もあります。
治療にかかる費用は健康保険と違い、自己負担額がありません。
また、業務中に限らず通勤途中での病気やけがも給付の対象です。

雇用保険とは

雇用保険は労働者が失業した場合に給付を行い、再就職の援助や、雇用の安定を目指す保険です。
失業した際の失業給付は雇用保険から支払われますし、全国にあるハローワークでは再就職の援助を行っています。
また、労働者のキャリア形成を目的とした教育訓練を行ったり、会社への助成金制度によって雇用の安定を図ったりもしています。

労働保険に加入するには?

労働保険に加入できる要件ですが、前回の社会保険よりも広い範囲を受け持っています。
まず雇用保険ですが、下記のすべてを満たす方が加入できます。
1.週の所定労働時間が20時間以上の方
2.31日以上にわたり雇用される見込みのある方
労災保険は、パートアルバイトなども含め全員が強制的に労災保険に加入することになるため、特に手続きは必要ありません。
ただし、一部の個人事業主による事業は、労災保険の加入が強制ではなく任意となりますので、労災保険が適用されない可能性があります。
また、法人の代表者など労働者ではない方は原則として労働保険に加入できません。

 

5.年次有給休暇とは

 

年次有給休暇とは、一般的には『有給休暇』『年休』『有休』などとと呼ばれ、一定の条件を満たした労働者に対して与えられる休暇です。
この休暇は、業種や雇用形態を問わず、すべての労働者に付与されるものと定められています。

年次有給休暇が付与される条件は下記を満たした場合です。
・雇入れ日から6ヶ月間継続して勤務すること
・全労働日の8割以上を出勤していること

年次有給休暇が付与される日数は?

雇入れ日より6カ月間継続勤務すると10日間の年次有給休暇が付与されます。
その後も1年ごとに付与日数が増え、最大で年間20日(勤続年数6年6ヶ月以上)もらえるようになります。


パートやアルバイトも年次有給休暇が付与される?

パートやアルバイトなどの所定労働日数の少ない労働者にも上記の条件を満たせば年次有給休暇が付与されます。
ただし、上記に記載した日数が付与されるわけではなく、所定労働日数を基に比例計算した年次有給休暇の日数となります。

年次有給休暇の時季変更権

年次有給休暇は労働者の権利になりますので、会社が権利の行使を制限することは原則として認められていません。
ただし、有給休暇の取得によって会社が行う事業の正常な運営が妨げられる場合には、会社は別の時期に変更する権利があります。

年次有給休暇の取得義務化とは?

諸外国と比較して、日本は年次有給休暇の取得率が低い水準となっております。
そのため、取得率の向上を目的として2019年4月に法改正が行われ、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、そのうち5日を付与から1年以内に取得させるよう企業に義務が課されるようになりました。
この制度はすでに5日以上の年次有給休暇を取得している労働者には特に影響はありませんが、5日未満の労働者に対しては会社が時季を指定して年次有給休暇を取得させることができるようになっております。
もっとも、会社が一方的に時期を指定できるわけではなく、あらかじめ該当する労働者から希望を聞いたうえで、その希望になるべく沿うように時期を指定する必要があります。

派遣労働者の年次有給休暇について

派遣労働者の使用者は派遣元ですので、年次有給休暇の取得申請先は派遣元になります。
また年次有給休暇の取得時期の指定も派遣元が行います。
しかしながら、年次有給休暇を取得することは派遣先企業にも影響がありますので、実際には年次有給休暇の取得に際して派遣元と派遣先が協力していく必要があります。


 

6.育児休業とは

 

育児休業は、1歳未満の子を養育することに専念するために法律上認められた休業です。

昨今の少子化に歯止めをかけるためには育児を取り巻く環境の整備が必要とされ、その一つとして育児休業が含まれます。
そのため、ここ数年は育児休業に関する法改正が頻繁に行われております。

育児休業の取得条件は?

育児休業は、『1歳未満の子を養育する』従業員が取得できます。
このため、男女関係なく取得できますし、正社員に限定せずパートやアルバイト従業員も対象です。
ただし、以下の従業員は育児休業の取得ができない場合があります。
・入社後1年未満の従業員
・週の所定労働日数が2日以下の従業員
・有期雇用労働者のうち、子が1歳6ヶ月になる日までに雇用契約が満了することが明らかな従業員

育児休業が取得できる期間は?

育児休業は男女とも『養育する子が満1歳になる前日』まで取得可能で、2回に分けて取得することもできます。
また子の両親ともに育児休業を取得した場合には、『子が満1歳2カ月になる前日』まで延長できる制度があります。
子が保育園に入所できないなど一定の条件を満たした場合に限り、最長で『満2歳の前日』までの育児休業が認められています。
さらには、令和4年10月より子の出生日から8週間までの間で取得可能な出生時育児休業制度が始まっています。

育児休業期間中の給与は?

育児休業期間中は労働ができませんので、一定条件の労働者には雇用保険から育児休業給付金を受け取ることが可能です。
受給できる金額は、おおよそ休業開始前の給与額の50%~67%が目安です。
また、育児休業期間中は申請することにより社会保険料が免除となります。

産休や育児休暇との違いは?

育児休業とは似たような言葉に『産休(産前・産後休業)』や『育児休暇』があります。
『産休(産前・産後休業)』とは、子を出産する従業員の母体保護を目的にした休暇で、女性従業員のみが取得可能です。
『育児休暇』は会社独自に定める育児に関する休暇で、育児休暇の導入自体が会社の自由となっております。

 

7.派遣が禁止されている業務とは?

 

日本国内において労働者派遣が認められている業種について、労働者派遣業の歴史について触れた際に『派遣を禁止する業種を列挙』しているとお伝えいたしました。

では、具体的にどの業種が労働者派遣を禁止されているのでしょうか。

 

1.港湾運送業務

 

港湾運送は、船舶への貨物の積み込みや積み下ろし、荷ほどきなどを行う業務です。

これらは船舶の入港具合により業務繁閑の差が大きく、雇用が安定的とは言えまい状態でした。

そのため、港湾運送労働者の雇用安定を目指して成立した『港湾運送法』の中に定める『港湾労働者派遣制度』が現在運用されているため、一般的な労働者派遣は禁止されています。

 

2.建設業務

 

建設業は、実際の建設現場工事が複雑な下請関係の下で中小企業により行われることが多く、雇用が不安定になりがちです。

そのため、『建設労働者の雇用の改善等に関する法律』により下請け労働者との雇用関係の明確化などにより雇用を安定させるための措置が図られているため、労働者派遣が禁止されております。

なお、建設業務とは建設現場に係る業務に限られており、現場で行わない事務的な業務などは派遣が認められております。

 

3.警備業務

 

警備業務は、混雑する場所での人の整理や、盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務です。要人の警護も含まれます。

人の生命や財産を守るための専門性とその危険性により、警備業は『警備業法』により警備会社が警備業務を請負形態で業務を遂行するよう定められているため、労働者派遣が認められておりません。

 

4.医療関連業務

 

医師、看護師、保険師などによる医療に関わる業務です。

医療業務は人の生命に直接かかわり、かつ専門的な知識を持った人たちが連携して業務を遂行する必要があるため、派遣が禁止されております。

なお、紹介予定派遣や育休等による労働者の代替要員の派遣などは認められています。

 

5.士業

 

弁護士、税理士などの士業は、依頼者から直接業務を請負うため、派遣先から指揮命令により業務を行うわけではありませんので、労働者派遣が認められません。

ただし、一部の士業で例外的に派遣が認められています。

 

まとめ

 

労働者派遣ができない業務があるのは、下記の3点に集約されます。

①特別な理由によりその業務に対する法律が定められていること、②危険な職務内容であること、③専門的な知識が必要な職務内容であること

労働者派遣は多くの業種で活用されていますが、労働者派遣ができない業務があると同時に、その中でも例外的に労働者派遣が認められる場合もありますので、派遣が禁止されている業務を行わないよう注意してください。

 

8.有期契約労働者の『無期転換ルール』とは?

 

有期契約労働者とは、6ヶ月や1年などの単位の期間で労働契約を締結している労働者のことで、一般的には『契約社員』『パート』『アルバイト』などと呼ばれています。

これらの方は期間の定めにより労働しているため、雇い止めへの不安や処遇が低いといった問題がありました。

そのため有期契約労働者を、無期の雇用契約に転換することで処遇を改善し、雇用の安定化を目指す目的で、2013年4月に改正雇用契約法が施行されました。

この法改正により設けられた制度を通称『無期転換ルール』と呼んでいます。

 

無期転換ルールは、以下の3つの条件をすべて満たした有期契約労働者が対象となります。

①有期労働契約の通算期間が5年を超えている

②労働契約を1回以上更新している

③上記の有期労働契約を同一の使用者との間で締結している

上記の条件のうち、いくつかを細かく見ていきましょう。

  

有期労働契約の通算期間が5年を超えている。

 

有期労働契約の期間が過去に更新したものも含めて通算して5年以上あれば対象となります。

ただし、5年の途中で労働契約をしていない期間(『無契約期間』といいます)が一定以上続いた場合には、それ以前の期間はリセットとなり、通算期間に含みません。

これをクーリングと言いますが、具体的には無契約期間が連続6ヶ月以上に達しますと、それ以前の労働契約の期間はその期間の長さに関わらずリセットとなります。

  

上記の有期労働契約を同一の使用者との間で締結している

 

『同一の使用者』とは、法人(会社)や個人事業主になります。

例えば、継続して同じ法人との間で通算5年以上の有期雇用契約期間がありましたら、その期間中に職種の変更や支店の異動があったとしても期間を通算します。

  

無期転換ルールの例外は?

 

下記のケースでは無期転換ルールが適用されず、申出をしても無期雇用契約に転換できない場合があります。

・定年後も同一企業で引き続き雇用される場合

・高度な専門的知識を有し、その知識を用いる業務をする場合

  

無期転換ルールを用いて無期転換するには?

 

上記の①②③をすべて満たしているのでしたら、労働者が雇い主の会社に申し出をすることで成立します。

その申し出をした場合、現在締結している有期雇用契約が満了した翌日から無期雇用契約となります。

また、無期転換の申し出をしたとしても、雇用契約期間以外の労働条件は変更する必要がなく、従前と同じでも問題ありません。

  

2024年4月の法改正による無期転換ルールへの影響は?

 

2024年4月より改正労働基準法施行規則が施行され、無期転換ルールについて、下記の事項が使用者に課されています。

・無期転換ができる有期雇用契約の更新のタイミング毎に、無期転換の申し込みができる旨を明示すること。

・無期転換ができる有期雇用契約の更新のタイミング毎に、無期転換後の労働条件を明示すること。

  

まとめ

 

無期転換ルールは、労働者を雇用契約期間に基づいた不安定な雇用から安定的な雇用にすることで処遇を改善するために設けられました。

一方で使用者側としても、人材の配置が難しくなる面があるものの、労働者に対して中長期的な教育を行えるようになり、また離職者数が少なくなることで採用コストを下げることができる、などのメリットもあります。

2024年4月の法改正により今後は無期転換の申し出をする労働者は増えると思います。

無期転換ルールを上手に活用して、労働者、使用者ともにwin-winな関係にしていければ、と思います。

 

9.労働者派遣法の3年ルールとは?

 

労働者派遣法に基づいて派遣労働者を受け入れる場合には、通称『3年ルール』と呼ばれる派遣期間の制限があります。

これは、派遣労働者を同一の派遣先企業への派遣可能期間に関する制限のことです。

この3年ルールについて解説していきたいと思います。

 

3年ルールにおける2つの制限

 

この3年ルールの制限については、以下の2種類があります。

『事業所単位の制限』

『個人単位の制限』

それぞれの内容について解説します。

 

『事業所単位の制限』

 

事業所単位の制限とは、同一の事業所において派遣労働者を受け入れることができる期間が3年まで、という制限です。

例えば、1年前からすでに派遣労働者を受け入れている工場が派遣労働者を追加して受け入れる場合、トータルで3年となる2年までしかその派遣労働者を受け入れることができません。

ただし、派遣先事業所の労働組合(労働組合がない場合には労働者の過半数代表者)から意見を聴取することで、受け入れ期限を3年間延長することができます。

また、ここでいう『事業所』とは、事務所や工場のなどのように業務を行うそれぞれの場所や施設のことで、企業や法人のことではありません。

そのため、派遣労働者を受け入れてから2年経過したA工場の派遣労働者を同じ企業のB支店に異動となった場合には、改めてB支店で受け入れた日から3年の期間がスタートします。

 

『個人単位の制限』

 

個人単位の制限とは、特定の派遣社員が派遣先事業所の同一部署で働くことができるのは3年まで、という制限です。

同一部署とは、事業所の内部における組織単位のことです。

一般的には「課」や「グループ」が想定されていて、この組織単位で同じ派遣労働者を受け入れるのが3年までとなります。

例えば、ある工場の経理課に派遣されていた労働者が同じ工場の製造ライン作業に異動した場合は、異動した日より改めて3年の制限が開始されます。

 

『3年ルール』の例外は?

 

以下の条件に該当する場合は、3年を超える派遣が認められています。

 

①派遣元会社と無期雇用契約を結んでいる派遣労働者

無期雇用契約とは、派遣会社に常時雇用されている形態ですので、仮に派遣先会社との派遣契約が終了したとしてもその後の長期的な雇用契約が見込まれるため、3年ルールの例外とされています。

 

②60歳以上の派遣労働者

高齢の労働者の雇用を確保する観点から、契約期間中に60歳以上になった派遣労働者は3年ルールの例外とされます。

 

③有期的なプロジェクトに派遣される労働者

「事業の開始・転換・拡大・縮小または廃止のための業務」に従事する派遣労働者については、3年ルールの例外とされます。

 

④就業日数が限定される業務に従事する派遣労働者

1ケ月の勤務日数が正社員の半分以下、かつ月10日以下しか行われない業務に従事する派遣労働者は、3年を超えての派遣が認められています。

 

⑤出産・育児・介護で休業する労働者の代替要因として従事する派遣労働者

休業する労働者の役割を担う目的のため、3年を超えての派遣が認められています。

 

同じ職場で3年以上働くには?

 

派遣期間が3年を迎える場合、派遣労働者にはどのような選択肢があるのでしょうか?

一般的には、下記の3つが考えられます。

・派遣会社との有期雇用契約を無期雇用契約に転換する。

・派遣先の部署を異動する。

・派遣先の会社に直接雇用してもらう。

 

まとめ

 

3年ルールは、有期雇用の派遣社員として同じ職場で働けるのは3年までと上限を設けることで、派遣労働者の雇用の安定や処遇を改善を促す目的があります。

『事業所単位の制限』『個人単位の制限』ともに3年を超えて派遣が認められることも可能ですし、またデメリットもあるものの派遣労働者は派遣先企業に直接雇用のチャンスがあるととらえて、この3年の間にご自身の将来像を考えていきましょう。

10.休憩時間について

 

人間は労働を連続して続けていくと疲労することによる業務能率の低下や、業務災害の発生などの問題が生じてしまいます。

そのため、業務能率の回復や業務災害の防止を目的に、労働基準法第34条で休憩時間に関して定め、会社に義務付けられています。

 

休憩時間とは

 

休憩時間とは端的に言いますと、労働者が労働から離れることが保証される時間です。

具体的には、労働時間に応じて下記の休憩時間を確保するよう義務付けられています。

・労働時間が6時間を超える場合は、少なくとも45分

・労働時間が8時間を超える場合は、少なくとも60分

(運輸交通業に従事する労働者などは、例外もあります)

 

休憩時間の定めに『少なくとも』とありますので、上記の時間以上の休憩時間を与えることは問題ありません。

また、労働時間に対して休憩時間の長さを定めており、正社員やパートアルバイトとの間での区分もありません。

 

休憩時間の3原則とは

 

休憩時間には下記の3原則があります。

1.労働時間の途中に与える

2.同じ時間に一斉に与える

3.休憩時間中の自由利用

それぞれについてみていきます。

 

1.労働時間の途中に与える。

 

休憩時間を設ける意義として、労働を連続することによる疲労からの回復を最初にお伝えしました。

そのため、休憩時間は労働時間の途中に設けなければなりません。

言い換えますと、休憩時間の前後に労働時間があるということになります。

なお、休憩時間を労働時間の途中に与えていれば、労働時間のどのタイミングを休憩時間にするかについては、特に決まりはありません。

そのため、例えば休憩時間を労働時間の途中に2~3回程度に分割して与えることも可能です。

 

2.同じ時間に一斉に与える

 

同じ事業所で働く労働者に対して、同じ時間に一斉に与えることで、休憩時間による疲労回復の効果をしっかり確保する目的があります。

ただし、サービス業など不特定多数の方を相手とする業務や、事業の性質上一斉に休憩をとることが困難な事業に従事する労働者は、一斉に与えなくてもよいことになっています。

 

3.自由利用

 

休憩時間が労働から離れることを保証するものであるため、休憩時間は労働者が自由に利用できます。

ただし、例えば休憩時間中の外出について上司の許可制にするなど、会社の規律保持のために必要な制限を加えることについては、休憩の目的を損なわない限りで認められています。

 

まとめ

 

長時間の労働は、集中力の低下や心身の疲労の蓄積により、業務効率の低下だけでなく思わぬ事故に遭う可能性が高くなります。

それを防ぐためにも、労働時間の途中で休憩時間を取り、心身共にリフレッシュする機会を設けることが大切です。